想いの深さ
―SIDE:日番谷冬獅郎ー





恋に先着があるとして、もしそれがどんじりだったとしてもこの想いは決して誰にも
負けやしない。










「…だからそれは違うと思うんだ。」
「何が違うというのかネ?」
「どうでもいい。戦いができりゃいいじゃねーか。」



一番隊に護廷十三隊隊長が勢ぞろいし、今まさに隊首会の真っ最中。
各隊長が己の意見を通そうと各々に自己主張を行う。
それを傍で聞いている十番隊隊長・日番谷冬獅郎。
くだらない…と思う。
日番谷はそっとため息をつく。
意見を述べる事も大切ではあるがくだらない言い争いをしているより、お互いもっと
譲歩しあって早く終わらせた方が建設的だと思うが、口を挟むとさらに長引く事にな
るのは分かっているので、ここはおとなしくしていた方がいい。
口を挟んだ所で、どうせ若造がとか、まだ餓鬼のくせに…なんていわれるのがおち
だから。
日番谷は護廷十三隊最年少で隊長にまで上り詰めた人物。
天才児・神童…その言葉が表すとおり日番谷の外見はまだまだ少年の域をでな
い。
おかげで、言動は決して他隊の隊長たちと引けはとらないのだが見かけで軽くあし
らわれる事が多々ある。
それならば、意見を求められない限り黙っていた方がいいに決まってる。
…こんな言い争いをしている間に、どれだけの書類が片付けられた事か…。
日番谷は再び小さなため息をついた。










そう考えながら黙っていた日番谷が急にぴくりと反応を見せた。
「ん?どうした?十番隊隊長・日番谷冬獅郎。」
その様子を見た総隊長が声をかける。
「あ…いえ…何でも…。」
日番谷は視線をそらせてポツリと答える。
その姿を、何人かの隊長がほほえましそうに見ていたのを日番谷は知らない。
日番谷が急に反応を見せる事といえば、大方想像がつく。
この広い尸魂界の中を探しても、日番谷がこんな反応を見せるのはたった一人
だ。
なにしろ、この護廷十三隊では有名な話だから。
…なぜか肝心の本人を除いて…だが。





「まぁ、よい。ではこの議題は次回の隊首会までに各々の意見をまとめてくるよう
に。解散!」
隊首会の解散が告げられる。
それと同時に日番谷は一番隊の隊舎を駆け出していった。
「おやおや。随分すばやい行動だねぇ。」
「本当に。」
「普段は愛想のない表情をしているのに、この時は本当に嬉しそうだよね。」
「それにしても隊長の僕よりも先に存在に気付くとはね。恐れ入ったよ。」
くすくすと笑いながら、残された隊長達がほほえましい可愛いカップルを暖かく見守
るのだった。





隊首会の途中で感じた霊圧。
まぎれもなくあいつのものだ。
花の名前を持つ、この世の何よりも愛しい存在。
此処最近は仕事が忙しくてなかなか会う事が出来なくて。
久しぶりに感じた暖かい彼女の霊圧。
そう思うといてもたってもいられなくて、彼女に会いたくて会いたくて…。
日番谷はその霊圧に向かって走っていく。





一番隊隊舎の裏手で彼女の確かな霊圧を感じる。
角を曲がれば、彼女はすぐ其処にいる。
…でも…。
もう一つ、彼女とは違う霊圧を感じる。
日番谷は歩みを止めて影からそっと彼女がいると思われる場所を覗き込む。
其処には想像どおり、彼女と…彼女の同期でもある三番隊副隊長・吉良イヅルが
いた。



真央霊術院の時からの同期で、実習でも同じ班だったと聞く。
そして今は、彼女と同じ副隊長。
だから、同じ同期たちの中でも特に仲が良い。
その姿を見るたびに日番谷の中に黒い感情が芽生える。
どうして俺は年下なんだ…?
同じ年頃だったら…俺だってあいつと同期になって…同じ学生生活を送れたのに。
あいつは俺の知らないあいつを知っている。
それがすごく嫌だ。
あいつが…俺と同じ感情を持っているのは知っている。
同じ相手に、同じ感情を持つ者同士だからか?
でも…この感情は絶対に誰にも負けやしない…!





無意識に霊圧を吉良に向かって放出する。
「あ、日番谷くん!」


そんな事には気付かない彼女は笑顔で俺に声をかける。
吉良に何か一言かけて、真っ直ぐに俺の方に駆けてくる。
「どうしたの?日番谷くん。こんな所で。」
「別に。隊首会の帰りだ。」
「あ!そういえば、藍染隊長が言ってたっけ。」
「おいおい…大丈夫か?お前。それでも副隊長かよ?」
「むぅ?またそんな意地悪いう…。」
彼女がふてくされたような表情を見せる。
そんな様子に、俺も思わず笑みを浮かべる。
「…でも…嬉しいな…。日番谷くんと会うの…久しぶりだもんね。」
「そうだな…。あの書類、結構てこずらせてくれたしな。」
「日番谷くんのところはもう終わった?」
「当たり前だろう?んなもん、いつまでも残しておくか。3日前には終わらせた。」
「ふわぁ…。すごいねぇ。」
「別に…。当たり前だろ?」
「もう。素直じゃないなぁ。」
そう言いながらも彼女はくすくす笑う。



「ほら、いつまでもこんな所にいないでいくぞ。」
「え?行くって…日番谷くん、仕事は?」
きょとんとした表情で彼女が聞いてくる。
「今日はたいした仕事はないし…少し散歩でもするか…?」
「…いいの…?」
遠慮がちに聞いてくる彼女。
「馬鹿桃…。いいにきまってんだろーが。ほら。」
手を差し出すと彼女は嬉しそうに俺の手を取った。
俺の大好きな花のような笑顔。
この笑顔を護るためなら俺は何だってしてみせる。



そんな彼女の背後で何処か悲しそうな表情の吉良が映る。
あいつがこいつ…雛森に想いを寄せている事は知っている。
片想いが辛い事も…他の男と一緒にいる事がどんなに辛い事か…それは俺自身
が一番良く分かってる。
現にこうしてやっと彼女を手に入れたというのにその感情が薄れるどころか濃くなる
一方だから。


でも…悪いな。
いくら分かるといっても、こいつを譲るわけにはいかないんだ。
長年、想い焦がれてきた大切な彼女。
こいつは俺が護ると決めた。
その笑顔も、存在も…彼女のすべてを。
あいつの…こいつを思う気持ちが本物だとは思う。
でも…先に想い続けたのは俺のほうだ。
いや…もしあいつの方が先に惚れていたとしたって…俺は負けない。
あいつだけではない。
こいつをここまで想うのはこの尸魂界中探したって、俺以外にはありえない。
どんなヤツが現れたってこいつを想う気持ちは絶対に誰にも負けやしない。








日番谷サイドのお話です。

桃ちゃんを想う気持ちはヒツも吉良も変わらないと思うのです。
どちらも桃ちゃんに長年片想いしてるしね(^^;
二人とも桃ちゃんが幸せなら他の男とくっついても
身を引きそうな感じもしますが
でも、その想い方に違いがあるんじゃないかという考えで
吉良サイドとヒツサイドのお話にしてみました。